本件では、和解の内容として、「過重労働再発防止策」(和解条項4、別紙)をかなり詳細に定め、これを被告側が自社のホームページに掲載する(和解条項5)のが特徴です。

過重労働再発防止策は多岐に及びますが、要約すると、(1)タイムカードによる徹底した労働時間管理、(2)残業時間の上限となる三六協定(さぶろく協定)の遵守とそこにおける上限時間の低減努力、(3)労基署から是正勧告があった場合は従業員及びコンプライアンス委員会への周知・報告、(4)研修や「新卒ボランティア活動」、課題について労働時間として適正に把握、(5)従業員全体に対して本購入代金等の返還、(6)労働者募集時に労働条件を詳細に記載し基本給と深夜勤務手当を分けて記載する、(7)専門化を含むコンプライアンス委員会の運営とその報告のホームページへの掲載等です。事件外のワタミの労働者全体に全面的に波及する内容であり、一事件の範疇を超えて、卓抜した内容だと評価できます。

4 評価

民事の損害賠償請求事件は、人が亡くなった場合、本質的にはそれを金銭に見積もってしまう、ある即物的な事件類型です。一般的には、被告が謝罪や再発防止策を誓ったり、それを世間に公表したりする義務はありません。

今回の和解はこの即物的な領域について、使用者である会社のみならず、渡邉美樹氏を含む経営者らが責任を全面的に認め、最大限の賠償義務を認めたことが重要です。

また、法的に求められる領域を超え、被告らに謝罪をさせたことも大きな意義があります。

さらに特筆すべきは、事件の範囲(事件は原告と被告らの間のものです)を超え、事件外のワタミの労働者全体に対する過重労働防止策を誓わせた点でしょう。その内容もかなり細部に及んでおり(書籍の購入代まで返還させる徹底ぶり!)、ワタミに限らず、「ブラック企業」と名指しされるような企業が労働者を搾取している典型的なパターンをかなり含んでいます。「ブラック企業問題」が社会問題化した大きな契機ともなっているこの事件で、このような「ブラック企業」の手口を許さない約束をさせたのは、極めて大きな意義があると思います。恐らく、これこそ、大切なご家族を失った原告(被災者のご両親)の思いだったのではないでしょうか。

全体として、「ブラック企業」を正常化するための示唆に富んだ内容であり、今後の「ブラック企業」問題全体にも波及する効果があると考えます。このような高水準の和解を勝ち取った原告及び弁護団、支援者の方々に心より敬意を表します。