※金のトラブルで疎遠になってしまった母親と病院で再会して

 母はブーンと音を立てる人工透析の機械に腕を繋がれたまま、ベッドの上に座るようにして何時間も私と話をした。彼女があまりにも元気そうだったので、私は一体この騒ぎは何なのだろうと思い始めた。私の滞在の最終日、母は私に椅子をもっとベッドのそばに引き寄せるように言った。大事なことを聞きたいから、と。
 何を言われるのかわからぬまま、私は身を乗り出し母のそばへ寄った。母は言った。
「ジョン、本当なの?」
「本当って、母さん、何が?」
「あなた、本当にお金持ちなの?」
「おい、一体何を……」
 私は言葉を止めた。母は死に瀕しているんだ。そこで私はこう答えた。
「その話はしたくないんだよ」
「あら、教えてよ、ジョン、お願いだから」
「わかったよ。そうだね、金持ちだよ」
 母は女学生のように目をきらきらさせて微笑んだ。少なくとも、ようやく母を幸せな気分に出来たんだな、と私は思った。
 ところが彼女はさらにこう尋ねた。
「もっと教えて、ジョン。あなた、とっても、とっても大金持ちなの?」
「母さん、頼むよ」
 私はうめいた。
「その話はやめよう」
「でも、知りたいのよ!」
 私はため息をついて答えた。
「そう言うなら仕方ない。そう、そのとおりだよ」
 母は再び大きな笑顔を浮かべた。心のどこかで私は、こんなことが母にとって本当に大事なことなのか?と思っていたが、その一方で、自分達の気持ちがこれまでになく近くなったこともわかっていた。
 私は笑いだし、母も笑声を上げた。
「どんな感じ?」
 くすくす笑いながら、母が尋ねた。
「そう悪くはないよ、母さん」
 私は答えた。
「悪くはない」

※中略

 母には平穏の内に旅立って欲しかった。私に注目が集まったりせずに。何年もの間、私は充分母を悲しませ嘆かせてきたんだ。今更それに輪をかける必要はない。だから、私は葬儀には出なかった。今でもあれは正しい判断だったと思っている。母の最後の思い出が素敵なものになっただけでも充分だ。病院のベッドに横たわり、私に笑顔を向けて「とっても、とっても大金持ちになる」というのはどんな感じなのか、と尋ねる母の姿がはっきりと目に浮かぶ。そして私は答えるんだ。
「悪くはないよ。母さん。悪くはない」

「アイ・アム・オジー」 オジー・オズボーン自伝 (via monotunes

)

(via tkdsngn)